もらったお土産をいそいそと家に持ち帰って、紅茶を入れて、ゆっくり味わった。
ふわっと溶けて消えてなくなるような和菓子。優しい芋の香り。
3個あるから大事に食べようと2個は冷蔵庫にそっと入れた。
写真を撮って、「お土産おいしいです。ありがとうございます。」とメールを送った。
試験前のクリスマスイブ。
試験のことで頭がいっぱいだったけど、きちんと返信をくれる人だから、勉強しながらのんびりと返信を待った。
着信を知らせるバイブ。
来た、と思い、メッセージボックスをそっと開く。ちょっとした挨拶くらいだろうと分かっていても、すぐに内容が見たかった。
文の最後に「よかったらメシ行かない?」と書いてあった。
頭に血が上り、かーっとなって、ふわふわした。
予想外のお誘い。
提案してくれた日はすぐそこだった。
チャンスを逃したくなくて、その日でOKした。
ドキドキしながらスマホを置く。
え、これは。
デート、だよね。
ご飯だけだけど。
ちゃんとしたお誘いだよね?
と、ぐるぐる。
私の職場の最寄まで来てくれるとのこと。
凝った店が多いけど、私は気軽なカフェバーに行きたかった。
提案したら、「それもいいね。でも、ちょっと考えてもいい?」と彼。
考えてくれるんだ。
男らしい。
前日の夜。
念入りに体をキレイにして、ドライヤー。
ふと思いついて、LUSHのリップスクラブで唇をなぞった。
デートの前日にいつもやる習慣。
ミントの甘い香りがする。
リップクリームを塗ったら唇がツルツルになった。
返信が来ないまま、眠る時間。
信用がない相手なら不安になるけれど、彼なら大丈夫。
いつもの姿を知ってるし、今までもやり取りしたことがあるから。
眠る前、少し前の練習で撮った彼の写真やメールをぼーっと眺める。
早く、返信来ないかな。
ドキドキしながら眠りについた。
ついに迎えた当日の朝。
普段は使わないイプサのクリームファンデーションで化粧する。
いつもより丁寧に。少しでもかわいく。
前髪の分け目が完璧になるように慎重に髪の毛をいじったり。
チークはNARSのピンク、口紅はジバンシーのピンク。
気合いが入りすぎてるかんじも恥ずかしいから。
まだ返信が来ないけど、こちらもバタバタと会社までの道のりを歩く。
BGMはミスチル。
会社の鏡を見ながら、ニヤニヤしないように気を付ける。
今日も1日、がんばるぞ。
業務中、メールが来ないかそわそわ、ドキドキ。
昼休みはFacebookでキャッチャーマスクをした彼の写真を眺めながら、ドキドキしてた。
ひたすら、ひたすら、ドキドキ、ドキドキ。
17時。
会議が始まる少し前、彼からメールが届いていた。
「忙しすぎてまだ何も決まってないよー!でも仕事は切り上げる!」
やっと来た返信にほっとする。
忘れるような彼じゃないと分かってても、やっぱりちょっと不安だった。
相変わらず忙しそう。
彼の仕事の事情を知っていたからクスクス笑った。
お店を決めてないのも大丈夫。
元々カフェバーに行きたかったからちょうどいい。
そう返信して会議室に向かった。
ドキドキ、ドキドキ。楽しみだなぁ・・・。
時計がない部屋での会議は長引いて、会議室を出たころにはもう着いてるという彼からのメッセージ。
急いで荷物をまとめてタイムカードを切り、会社のトイレの鏡をのぞく。
化粧くずれてないよね?
髪、ボサボサじゃないよね?
急いでるけど口紅は引きなおさなきゃ。
グロスはベタベタになるから、口紅だけ引こう。
冷静に、でも急いで。
もう一度鏡を見て、トイレを出る。
猛ダッシュで階段を駆け下りて、駅まで向かう。
小雨の中、傘を持って待ってる彼。
会えた。
嬉しいな。
少し遠くから、彼の名前を呼ぶ。
「すみません、会議室、時計なくて。会議長引いちゃって遅くなりました。」
息切れしながら一気にしゃべった。
「あぁ~、あるある。ありがとね。」
と全然気にしない風に答えてくれる彼。
傘、ないの?と傘をかざしてくれる。
歩きながら鞄の折り畳み傘を探した。
お店に入り、カウンター席に通された。
たまたまカウンターだっただけだけど、ちょっと得した気分。
横顔を見ながらたくさん話した。
タブレットで彼が色々な写真を見せてくれたり、私がスマホでお気に入りの本や映画を教えたり。
ふわふわした気分で、たくさん笑った。
顔が熱い。
4時間、あっという間だった。
閉店の1時間前、ドリンクがラストオーダーだったから何飲もうか~?と迷っていたら、彼はコーヒーにする、と答えた。
〆をコーヒーにするなんて初めてだった。
半分受け狙いだったみたいだけど、私もコーヒーが飲みたかったし、そうしようかと笑った。
熱いブラックを2つ、注文した。
私は何も入れず、彼はミルクと砂糖を入れて。
カフェインは控えていたけど今日は特別。
熱くて、苦くて、おいしい。
もっと一緒にいたかった。
お会計をしてお礼を言って外に出た。
雨が上がって、つんと寒い冬の夜。
駅の階段を下りてる時もずっとおしゃべり。
電車が来たので、手を振って別れた。
ドキドキ、ドキドキ。
寒い空気が気持ちいい。
帰宅して、お風呂を沸かしながらお礼のメールを送った。
「楽しかったよ。またおすすめの本とか映画、教えてね。」
シンプルなメッセージがお礼の言葉とともに添えられて返ってきた。
ドキドキ、ドキドキ。
今日、眼鏡してたなぁ。
眼鏡してない方が好きだなぁ。
スーツも、かっこよかったなぁ。
でもでも、とにかく、楽しかったなぁ・・・。
今日はずっと、ドキドキしてた。