星を数えて。

ネガティブOL。34歳。

ドキドキする。

もらったお土産をいそいそと家に持ち帰って、紅茶を入れて、ゆっくり味わった。

 

ふわっと溶けて消えてなくなるような和菓子。優しい芋の香り。

 

3個あるから大事に食べようと2個は冷蔵庫にそっと入れた。

 

写真を撮って、「お土産おいしいです。ありがとうございます。」とメールを送った。

 

試験前のクリスマスイブ。

 

試験のことで頭がいっぱいだったけど、きちんと返信をくれる人だから、勉強しながらのんびりと返信を待った。

 

着信を知らせるバイブ。

 

来た、と思い、メッセージボックスをそっと開く。ちょっとした挨拶くらいだろうと分かっていても、すぐに内容が見たかった。

 

文の最後に「よかったらメシ行かない?」と書いてあった。

 

頭に血が上り、かーっとなって、ふわふわした。

 

予想外のお誘い。

 

提案してくれた日はすぐそこだった。

 

チャンスを逃したくなくて、その日でOKした。

 

ドキドキしながらスマホを置く。

 

え、これは。

 

デート、だよね。

 

ご飯だけだけど。

 

ちゃんとしたお誘いだよね?

 

と、ぐるぐる。

 

私の職場の最寄まで来てくれるとのこと。

 

凝った店が多いけど、私は気軽なカフェバーに行きたかった。

 

提案したら、「それもいいね。でも、ちょっと考えてもいい?」と彼。

 

考えてくれるんだ。

 

男らしい。

 

前日の夜。

 

念入りに体をキレイにして、ドライヤー。

 

ふと思いついて、LUSHのリップスクラブで唇をなぞった。

 

デートの前日にいつもやる習慣。

 

ミントの甘い香りがする。

 

リップクリームを塗ったら唇がツルツルになった。

 

返信が来ないまま、眠る時間。

 

信用がない相手なら不安になるけれど、彼なら大丈夫。

 

いつもの姿を知ってるし、今までもやり取りしたことがあるから。

 

眠る前、少し前の練習で撮った彼の写真やメールをぼーっと眺める。

 

早く、返信来ないかな。

 

ドキドキしながら眠りについた。

 

ついに迎えた当日の朝。

 

普段は使わないイプサのクリームファンデーションで化粧する。

 

いつもより丁寧に。少しでもかわいく。

 

前髪の分け目が完璧になるように慎重に髪の毛をいじったり。

 

チークはNARSのピンク、口紅はジバンシーのピンク。

 

気合いが入りすぎてるかんじも恥ずかしいから。

 

まだ返信が来ないけど、こちらもバタバタと会社までの道のりを歩く。

 

BGMはミスチル

 

会社の鏡を見ながら、ニヤニヤしないように気を付ける。

 

今日も1日、がんばるぞ。

 

業務中、メールが来ないかそわそわ、ドキドキ。

 

昼休みはFacebookでキャッチャーマスクをした彼の写真を眺めながら、ドキドキしてた。

 

ひたすら、ひたすら、ドキドキ、ドキドキ。

 

17時。

 

会議が始まる少し前、彼からメールが届いていた。

 

「忙しすぎてまだ何も決まってないよー!でも仕事は切り上げる!」

 

やっと来た返信にほっとする。

 

忘れるような彼じゃないと分かってても、やっぱりちょっと不安だった。

 

相変わらず忙しそう。

 

彼の仕事の事情を知っていたからクスクス笑った。

 

お店を決めてないのも大丈夫。

 

元々カフェバーに行きたかったからちょうどいい。

 

そう返信して会議室に向かった。

 

ドキドキ、ドキドキ。楽しみだなぁ・・・。

 

時計がない部屋での会議は長引いて、会議室を出たころにはもう着いてるという彼からのメッセージ。

 

急いで荷物をまとめてタイムカードを切り、会社のトイレの鏡をのぞく。

 

化粧くずれてないよね?

 

髪、ボサボサじゃないよね?

 

急いでるけど口紅は引きなおさなきゃ。

 

グロスはベタベタになるから、口紅だけ引こう。

 

冷静に、でも急いで。

 

もう一度鏡を見て、トイレを出る。

 

猛ダッシュで階段を駆け下りて、駅まで向かう。

 

小雨の中、傘を持って待ってる彼。

 

会えた。

 

嬉しいな。

 

少し遠くから、彼の名前を呼ぶ。

 

「すみません、会議室、時計なくて。会議長引いちゃって遅くなりました。」

 

息切れしながら一気にしゃべった。

 

「あぁ~、あるある。ありがとね。」

 

と全然気にしない風に答えてくれる彼。

 

傘、ないの?と傘をかざしてくれる。

 

歩きながら鞄の折り畳み傘を探した。

 

お店に入り、カウンター席に通された。

 

たまたまカウンターだっただけだけど、ちょっと得した気分。

 

2人とも弱いので、ジントニックスプモーニで乾杯した。

 

横顔を見ながらたくさん話した。

 

タブレットで彼が色々な写真を見せてくれたり、私がスマホでお気に入りの本や映画を教えたり。

 

ふわふわした気分で、たくさん笑った。

 

顔が熱い。

 

4時間、あっという間だった。

 

閉店の1時間前、ドリンクがラストオーダーだったから何飲もうか~?と迷っていたら、彼はコーヒーにする、と答えた。

 

〆をコーヒーにするなんて初めてだった。

 

半分受け狙いだったみたいだけど、私もコーヒーが飲みたかったし、そうしようかと笑った。

 

熱いブラックを2つ、注文した。

 

私は何も入れず、彼はミルクと砂糖を入れて。

 

カフェインは控えていたけど今日は特別。

 

熱くて、苦くて、おいしい。

 

もっと一緒にいたかった。

 

お会計をしてお礼を言って外に出た。

 

雨が上がって、つんと寒い冬の夜。

 

駅の階段を下りてる時もずっとおしゃべり。

 

電車が来たので、手を振って別れた。

 

ドキドキ、ドキドキ。

 

寒い空気が気持ちいい。

 

帰宅して、お風呂を沸かしながらお礼のメールを送った。

 

「楽しかったよ。またおすすめの本とか映画、教えてね。」

 

シンプルなメッセージがお礼の言葉とともに添えられて返ってきた。

 

ドキドキ、ドキドキ。

 

今日、眼鏡してたなぁ。

 

眼鏡してない方が好きだなぁ。

 

スーツも、かっこよかったなぁ。

 

でもでも、とにかく、楽しかったなぁ・・・。

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今日はずっと、ドキドキしてた。